飲食店の税務

月別アーカイブ: 5月 2013

今回も前回に引き続き、

法人成りについて取り上げます。

 

前回は、主に所得税と法人税の構造上の違いから生じる

影響についてお話しました。

 

その中で、法人成りして給与を支給し

給与所得控除を利用することや生命保険を活用することなどによって、

個人事業に比べより大きな節税対策が可能であることを指摘しました。

 

今回は、所得税・法人税以外の税金として、

消費税と相続税に焦点を当てて見ていきます。

 

また、その他のポイントとなる社会保険と

法人成りによるデメリットについても触れておきます。

 

最終的に法人成りするかどうかは、

このような影響を複合的に検討して決めることになります。

 

法人成りした場合の詳細なキャッシュフローへの影響は、

パソコン等を使ってシュミレーションすることになりますが、

概略を抑えておけば、

法人成りを検討すべきかどうかの判断くらいはできるようになります。

法人成りと消費税

今後、消費税率が来年4月から8%、

再来年10月から10%になるのは皆さんご承知の通りです。

 

それでは、消費税を納めなければならないのは

どのような人(会社)なのでしょうか。

 

既に消費税の課税事業者として

消費税を納めている人はよくご存じかと思いますが、

消費税の納税義務の判定は、基準期間の課税売上高で判断します。

 

基準期間とは、個人の場合2年前(会社の場合2期前)の年度のことで、

基準期間の課税売上高が1000万円を超えると納税義務者になります。

 

課税売上高とは消費税法上、

課税対象となる取引から生じた売上高のことです。

 

飲食店経営の場合、店舗の売上や設備の売却などが課税売上になります。

 

ここでポイントとなるのは、基準期間という考え方です。

 

例えば、今年飲食店を開業した人にとって、

2年前の基準期間には課税売上は存在しません。

 

つまり、開業初年度は基準期間の課税売上高が0円のため、

消費税の納税義務がないということです。

 

同様に2年目ついても2年目の基準期間は去年なので、

課税売上高は0となり、免税事業者です。

 

3年目になって、初めて1年目の課税売上高いかんによって

課税事業者になる可能性が出てくるのです。

 

この考え方は法人についても同じです。

 

基準期間の課税売上高が1000万円以下なら免税事業者なので、

会社設立後1期目、2期目は消費税の納税義務はありません。

 

(ただし、資本金の額や基準期間が1年に満たない場合の

課税売上高には注意が必要です。)

 

それでは、個人経営の飲食店の売上が

初年度2000万円、

2年目3000万円、

3年目4000万円、

4年目5000万円

と毎年順調に1000万円ずつ増えていった場合を考えてみます。

 

初年度、2年目は基準期間の課税売上がないため、

消費税は免税です。

 

3年目は初年度の売上が1000万円を超えているため、

課税事業者となり、190万円の納税が生じます。

 

(話を簡略化するために仕入等の経費は0円とし、

簡易課税についても考慮していません。)

 

4年目は238万円の納税です。

 

ここで、もし3年目に個人事業から法人成りした場合どうなるでしょうか。

 

消費税の世界では個人が法人成りし、実体に何ら変化がなくても、

法人と個人は別人格とされるため、

法人成り後の法人が個人時代の基準期間を引き継ぐことはないのです。

 

つまり3年目も免税、4年目も免税となるのです。

 

今回の例では2年間で428万円の節税ということになります。

 

これは法人成りをした場合の一番のメリットと言っていいかと思います。

 

ただし、3年ごとに新会社を設立して

消費税の納税を免れるような悪質なケースが多く見受けられるようになったため、

今では基準期間以外に、

特定期間についても一定の条件を満たさなければ免税事業者とはなれないこととされ、

免税事業者となるためのハードルは高くなっています。

 

また、今後消費税の税率が8%、10%と上昇していくと、

免税事業者になることによる金額的影響は更に大きくなっていくので、

いずれ1000万円の基準はもっと引き下げられるだろうと言われています。

 

相続税

法人成りは相続や贈与の際の財産評価にも影響を与えます。

 

個人事業主に相続が発生した場合、

相続人は亡くなった事業主が所有していた事業用資産を相続することになります。

 

事業用の現金預金や売掛債権・棚卸資産、

または設備や車両のような固定資産があるかも知れません。

 

これらの資産は、相続税法上、

原則として個々の資産ごとに評価することになります。

 

これが、法人成りによる法人を通じた間接所有になると、

その評価方法が全く違ってくるのです。

 

間接所有とはどういうことかというと、

それぞれの事業用資産を直接所有しているのは法人であって、

もとの個人事業主はこれら資産を所有している会社の株式を所有しているだけです。

 

ですが、実際は会社の株式の所有を通して

事業用資産を所有しているのと同じ状態で、

このような所有形態を間接所有といいます。

 

直接所有であっても間接所有であっても

実質的に事業用資産を所有しているという点では同じですが、

相続税における評価という点では全く異なったものになっています。

 

直接所有の事業用資産の評価は先程、

お話したとおりですが、法人を通した間接所有の場合、

個々の事業用資産ではなく、個人が所有している株式が評価の対象となります。

 

上場株式のように市場で流通していない株式については、

相続税法上特殊な評価方法の定めが設けられています。

 

詳細は省きますが、主に会社の純資産の価額に基づいて評価する方法と

上場株式の株価に一定の比率を乗じて評価する方法があります。

 

前者の場合、個人事業主の場合の評価に近いものになりますが、

後者の場合、会社の配当や利益といったものが評価の過程に入りこんでくるため、

全く異なった評価方法になり、

結果として評価額が全然違ってくるということがよくあります。

 

この仕組みを利用すると

相続財産の評価額を大幅に引き下げることも可能なのです。

 

社会保険

法人成りすると基本的に社会保険に加入する必要が生じます。

 

個人事業主は、国民健康保険と国民年金へ加入しますが、

法人になると国民健康保険は協会けんぽや健康保険組合へ、

国民年金は厚生年金へと切り替わります。

 

この制度切り替えにより、

納める保険料が大幅に変わることもあるので、注意が必要です。

 

健康保険の場合、保険料が安い方がいい保険ということになるのでしょうが、

年金の場合は保険料が安いと将来もらえる年金も少ないということになるので、

長期的に考えるには年金の受給額も検討に入れる必要があります。

 

法人成りのデメリット

法人成りにはメリットだけではなく、当然デメリットもあります。

 

メリットだけなら全員法人成りを選択することになってしまいます。

 

一番大きいのは、法人を設立するための費用でしょうか。

 

今の会社法では最低資本金制度は廃止され、

資本金の確保は必要ありませんが、法人を設立登記するための費用はかかります。

 

司法書士のような専門家に依頼すると30万円程度の負担となるようです。

 

そのため、この設立費用を上回るだけの節税効果がないと

法人成りの効果はないということになります。

 

また、法人になると赤字であっても

地方税の均等割りという税金を納めなければならなくなります。

 

この下限は7万円です。

 

小規模な会社にとっては小さくない負担のようです。

 

その他、従業員を雇っている場合などは、

先ほどの社会保険への加入が大きな負担となることがあります。

 

社会保険加入前は健康保険も年金も全て個人負担ですが、

社会保険へ加入すると保険料は会社と個人で折半することになるためです。

 

今まで国民年金の保険料を納めていなかった人などがいると、

年金保険料が給料から天引きされて

手取りが減ることに理解が得られない場合もあるようです。

 

最後に税務申告についてですが、

法人税の申告には別表という特殊な用紙を用いるので、

それなりの知識が必要になります。

 

そのため、それまでは税務署等へ相談しながら

自分で対応してきた税務申告を

私たち税理士のような専門家へ依頼するケースもあります。

 

その場合にも、当然コストもかかります。

 

事業規模や業務内容によって相場はまちまちですが、

最近では月額数千円からという格安なところも出てきているようです。

 

「法人成り」は私たち税理士にとっても、

大きなビジネスチャンスですので、

今後、景気が回復し実体経済が上向いて、

節税対策の一環として

法人成りをしようと決意する人が増えてくることを期待しています。

 

税理士 荻原 岳志

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