飲食店の税務

月別アーカイブ: 4月 2013

個人事業主や会社を経営されている方なら

一度は「法人成り」という言葉を聞かれたことがあるかと思います。

 

実際に、個人事業から法人組織へ法人成りした

という方もいるかも知れません。

 

一般的に、法人成りすると取引先や金融機関などの

対外的な評価が高まると言われています。

 

現在の会社法のもとでは最低資本金制度が廃止され、

類似商号の調査も必要なくなっているので、

誰でも簡単に会社を作れ、以前程個人と法人の差はなくなってきていますが、

それでも個人よりも法人の方が信頼できるとのイメージはいまだにあるようです。

 

しかし、法人成りの効果はこれだけではありません。

番大きなメリットは節税です。

 

個人事業から法人成りした場合、

所得税・法人税・消費税さらには相続税・贈与税などにも影響が及びます。

 

今回は、法人成りが各種税金に

どのような影響を与えるのかについて取り上げていきます。

 

大まかな全体像を把握し、

今後法人成りすべきかどうかの判断にお役立てください。

 

法人成りと所得課税

個別的な節税対策の話をする前に、

なぜ法人成りすると節税になるのかについて考えてみたいと思います。

 

いままで個人事業として営業してきたお店が、

法人組織に変更されても、営業をする上では何も変化はありません。

 

ですが、税金の計算上は大きな影響があります。

 

個人事業主には所得税が、法人には法人税が課税されるためです。

 

そして所得税と法人税では税額の計算方法が全く異なるのです。

 

所得税と法人税、それぞれの計算方法で大きく異なるのは、

所得区分と税率構造です。

 

最初に所得区分について確認していきます。

 

法人税では特に所得を区分することはありません。

 

お店の売上だろうが、店舗とその敷地を売却して得た収入だろうが、

税額計算上の扱いは一緒です。

 

これに対して所得税では、お店の売上は事業所得、

店舗・敷地の売却による収入は譲渡所得というように、

各所得をそれぞれの源泉にもとづき10種類に区分しています。

 

そして10種類に分けられた所得は、

それぞれの所得区分に応じて異なった税額計算の仕組みになっているのです。

 

この所得区分に対する取扱いの差が法人成りによる節税を生み出す一つ目の理由です。

 

次に税率構造についてです。

 

法人税では、中小企業向けの特例を除くと所得の多寡に関わらず

税率は一定となっています。

 

これに対して所得税では、

超過累進税率を採用している点に大きな特徴があります。

 

超過累進税率のもとでは、

所得が一定額以上になった場合にその超過額に対して

より高い税率を適用して税額を計算します。

 

その結果、同じ所得であっても、

所得が低いうちは法人税よりも所得税の方が低い税率となりますが、

 

一定の所得以上になると所得税が法人税よりも高い税率となります。

 

つまり、所得税と法人税のどちらが有利になるかの

分岐点が存在するということです。

 

このような税率構造の違いが

法人成りによる節税を生み出す二つ目の理由です。

 

このように所得税と法人税では、

所得に対する税額の計算方法自体が異なり、

また適用される税率も異なります。

 

そして、法人成りによる節税対策は

この仕組みを利用することで成り立っているのです。

 

役員給与・退職金の支給

それでは、ここから個々の具体的な節税対策について見ていきます。

 

法人成りによる節税対策の中でも特に効果が大きいのは

給与所得控除の活用です。

 

給与所得控除とは、

会社員の方などが給与所得の計算をする場合に、

実際に掛かったかどうかに関わらず給与の収入金額に応じて

認められている必要経費のことです。

 

では、この給与所得控除を活用してどのように節税できるのか、

具体的な事例で見ていくことにします。

 

個人事業主のAさんは500万円の事業所得があります。

 

納めた所得税は572,500円です。

 

ここでAさんは節税対策のために法人成りすることにしました。

 

法人成り後も全く同じ条件だとすると法人に500万円の所得が生じ、

500万円に対する法人税は1,275,000円(税率は25.5%としています。)

ということになります。

 

このままでは、法人成りしたことで税負担が増えてしまうので、

法人所得の500万円全てをAさんへの給与として支払うことにしました。

 

その結果法人所得は0円になり法人税も0円になります。

 

一方で、個人には給与所得が発生しますが、

500万円の給与収入に対しては

154万円の給与所得控除が経費として認められているので、

課税対象となる給与所得は346万円となり、

所得税は264,500円になります。

 

結果的に個人事業では572,500円だった税負担額が

法人成り後は264,500円へと308,000円減ることになるのです。

 

今回のケースでは308,000円税額が減少しましたが、

これは給与所得控除154万円に所得税率20%を乗じた金額になっています。

 

これが給与所得控除の活用による節税効果と言われるものです。

 

また、法人成りすることで給与以外に

退職金を支給することも考えられます。

 

個人事業の場合、事業主自身へ退職金を支給することはできませんが、

法人であれば役員に退職金を支給して経費とすることができます。

 

受け取る側では、退職金に対して所得税が課税されますが、

退職金は給与に比べ税制上かなり優遇されています。

 

受け取った退職金から必要経費として退職所得控除

(勤続年数20年以下の場合は40万円×勤続年数

20年を超える場合は800万円+70万円×(勤続年数-20年))

を差し引き、更にその半分が課税所得となります。

 

また退職金は分離課税とされているので

他に給与や事業などの所得があっても適用される税率に影響を受けません。

 

最近は退職金制度自体を廃止している会社も多くなってきているので、

今後の税制改正で課税方法が変わるかも知れませんが、

現時点では、節税対策として非常に有利な制度となっています。

 

生命保険の利用

個人事業の場合、事業主を被保険者とする生命保険に加入しても、

事業所得の計算上必要経費とすることは出来ません。

 

せいぜい確定申告の際に、生命保険料控除として

4万円(または5万円)の所得控除ができるだけです。

 

これが法人になると、

被保険者を役員・保険金の受取人を法人とする生命保険を法人が契約すると

一定の要件はありますが、支払った保険料を法人の経費にできるのです。

 

本来、保険は万が一のリスクに備えて加入するものですが、

節税対策の商品としてもよく利用されています。

 

日当手当の支払

法人の場合、業務上必要な出張に関しては、

交通費・宿泊費などの実費以外に日当手当を支給して

会社の経費とすることができます。

 

しかも、日当手当をもらった個人は所得税がかからないのです。

 

課税を受けずに法人から個人へ所得を移転できるので、

これも節税対策のひとつになります。

 

ただし、そのためには旅費規程を設け、

その中で妥当な日当手当の金額を定めておく必要があります。

 

決算期の変更

個人の場合、所得税の課税期間は

1月1日から12月31日の暦年で選択の余地はありませんが、

法人の場合は決算月を自ら選択できます。

 

年間を通して特定の月に売上が集中しているような会社の場合には、

決算月に売上の大きな繁忙期をもってくると、

事前に決算数値を予想することが難しく、

節税対策も取りにくいということになってしまいます。

 

法人の場合、売上の大きな月は

なるべく期の始めに持ってくるように決算月を決めましょう。

 

繰越欠損金の扱い

個人では事業で生じた欠損金は3年間しか繰り越せませんが、

法人になると最大9年間欠損金を繰り越すことができるので、

これもひとつのメリットです。

 

もっとも法人の場合、赤字といっても役員給与は

支払っているケースが多いと思いますが、

個人で赤字の場合、生活費をまるまる他から調達してくる必要があり、

これを3年も続けていたら生活が成り立ちませんから、

3年を超える繰越は想定していないのでしょう。

 

減価償却費の任意計上

個人では強制されていた減価償却費の計上が、

法人では任意になります。

 

そのため、その年度の利益状況を見ながら

償却費の計上額を調整できることになります。

 

ただし、会社法や会計基準では

毎期適正な償却をすることが求められていますので、

ご注意ください。

 

以上、法人成りが税金の計算に

どのような影響を与えるのかについて見てきました。

 

今回取り上げているのは税金の中でも

所得税と法人税についてです。

 

法人成りは他の消費税や相続税などの税金や

社会保険にも影響を与えます。

 

どのような影響を与えるのかについては

次回お伝えしようと思います。

 

税理士 荻原岳志

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