飲食店の税務

月別アーカイブ: 12月 2012

今、飲食店を経営されている皆さんにとって、

1番関心のある税金と言えば、おそらく消費税ではないでしょうか。

 

民主党政権の下、去る8月10日に社会保障・税一体改革関連法案が

可決・成立され、再来年の平成26年4月以降は現行の5%から8%へ引き上げられ、

1年半後の27年10月からは更に10%への引き上げが予定されています。

 

この増税法案については、与党内でも反対意見が根強く、

その後の民主党内で分裂騒動に発展し多数の離脱者を

生じさせたことは皆さんご存じのとおりです。

 

消費税は本当に上がる?

 

今回は、この消費税について取り上げてみたいと思います。

 

先ほど、消費税の税率が4月から引き上げられる予定だと述べましたが、

実はこの増税法案には付帯条項という特約が設けられています。

 

簡単にいうと、日本経済がデフレから脱却し一定の経済成長率や

物価上昇率を達成しているという前提で、

増税しても経済に極端な悪影響を与えないと判断できたときに

税率を引き上げるというものです。

 

この付帯条項があるため、

税率アップの時期が延期されることも充分ありえると主張している人もいます。

 

低所得者対策

 

本当に消費税が上がるかどうかという問題はとりあえず横に置いておき、

消費税を議論するときに、

必ず取り上げられる逆進性の問題について考えてみたいと思います。

 

経済学的に消費税は経済活動に影響を与えず、

最適な資源配分を達成するのに適した税であるとか、

個人が生涯で得た収入は最終的に何らかの形で消費されるので、

生涯所得に対する税負担という側面からは公平であるといった議論もあります。

 

一方で、実際に1,000円のパンを買う場合、

所得の多寡に関係なく50円の消費税を負担することになり、

金持ちもそうでない人も同額を負担するのは不公平だとの意見があります。

 

確かに月の収入が7万円の年金生活者と月給300万円の社長とでは、

重税感は全く違うでしょう。

 

軽減税率の導入

 

このような低所得者に対する支援策として今検討されているのが、

軽減税率の導入と給付付税額控除の採用です。

 

どちらも一長一短で、それぞれにメリット・デメリットがあります。

 

例えば、軽減税率の採用を考えた場合、

食料品は必需品なので税率を低く抑えるべきとの主張があります。

 

ここで問題になるのは、お米のような主食もキャビアやフカヒレのような

贅沢品もともに食料品ですが、同じ軽減税率を適用していいのかということです。

 

更に、お米の中にもランクがあり、

有名ブランド米から外国産米まで全て同じ軽減税率でいいのかという問題も生じてきます。

 

また、既に軽減税率を導入済みの国では、

スーパーで購入した食料品には軽減税率を適用し、

同じ食料品をレストランで食べた場合には、

軽減税率を適用させないという仕組みを設けているところもあります。

 

飲食店を経営されている皆さんにとって、

税率の引き上げそのものが大きな影響を与えるのはもちろんですが、

軽減税率の導入も飲食店業界にとって決して無視できない存在だということは

認識しておいた方がいいのではないでしょうか。

 

このように軽減税率の導入は、

特定の商品・業界単位で税率の設定をめぐって争いを生じさせ、

1度軽減税率が適用された領域は既得権として、

その後の状況変化に合わせた改正は困難だろうということが容易に想像できるのです。

 

結果的に、既得権をめぐって天下りなど

政官財の癒着の温床になる可能性も否定できません。

 

また、実務的な側面からですが、

個々の商品の消費税率など全て覚えられる訳がないので、

単に軽減税率を導入するだけでは、

現場で大変な混乱を生じさせてしまいます。

 

当然、他の諸外国のようにインボイス制度の採用など

制度面での整備もよく検討する必要があります。

 

給付付税額控除制度

 

一方の給付付税額控除ですが、

この制度は所得が少ない階層の人たちが納める税金を少なくする

(納める税金がない人へは還付する)ことを目的としています。

 

そのため、各個人の所得を把握する必要があります。

 

そうしないと本来受給資格がないのに

受給しようとする不正受給が防止できないためです。

 

ところが国民全ての所得を把握するということは

非常に困難を伴います。

 

税務署へ確定申告している人なら簡単ですが、

確定申告をしている人などは国民全体からすればごくわずかですし、

このような人は所得が高い人が多く、制度が予定している適用対象者ではありません。

 

給付付税額控除の対象者は低所得者なので、

確定申告などしていない人の方が圧倒的に多いということを考えると

確定申告のデータだけではとても対応できないということになります。

 

そのため、現在国民一人一人に番号を付けるマイナンバー制

といったものも議論されていますが、

どこまで情報を把握できるのかその実効性に疑問もあります。

 

そのほかにも、プライバシー情報の漏えいの危険性や、

制度導入のための数千億とも言われているコストなど、

クリアしなければならないいくつかの大きな課題を抱えています。

 

このようなことから、給付付税額控除制度もすぐには、

採用できそうにありません。

 

また、これらの低所得者対策は軽減税率であろうが

給付付税額控除であろうが、その内容を充実させればさせる程、

税率引き上げの効果が減殺されてしまうという根本的な問題もあります。

 

個人的には、税制は簡素であるべきなので、

このような低所得者対策は税制の中で行うのではなく、

社会保障制度の中で対応していくべきだと思っています。

 

年内に必要な手続き

 

ここで、消費税の納税義務者の方を対象に消費税の届出の取扱いに触れておきます。

 

消費税には、簡易課税の選択や、課税事業者の選択など

いくつかの特例制度が設けられています。

 

これらの特例制度を利用するには、

利用しようとする事業年度の初日の前日

(個人の場合暦年課税なので12月31日)までに

各種届出を税務署に提出しなければなりません。

 

個人事業主で、25年から特例制度の適用を考えている方は、

年内に届出書を提出しなければ効力は生じません。

 

残された期間はわずかですので、お忘れのないようにご注意ください。

 

詳細は省略しますが、ご参考までに主な消費税の届出書を記載しておきます。

 

・消費税課税事業者選択(選択不適用)届出書

・消費税課税期間特例選択(選択不適用)届出書

・消費税簡易課税制度選択(選択不適用)届出書

・消費税課税売上割合に準ずる割合の適用承認申請書

 

今後の展望

 

冒頭にも触れたように、今後の消費税の行方は分かりません。

 

しかし、飲食店を経営されている納税義務者の皆さんは、

今後の事業計画も資金繰りも税率は

確実にアップするものとして検討していかなければ、

いざ実際に税率が引き上げられた時に対応できないという事態に陥ってしまいます。

 

まずは、消費税分を価格に転嫁できるか、出来ないのかの判断です。

価格に転嫁できないのであれば、確実に増税分はキャッシュアウトするので、

その分は何らかのかたちで手当てする必要があります。

 

客数もしくは客単価を上げることで売上を増やすのか、

材料費や人件費などのコストを削減するのか、

または預貯金等の手許資産を取り崩してしのぐのか。

 

いずれにしても、事前のシュミレーションは欠かせません。

 

将来起こり得るだろう環境の変化を事前に取り入れ、

自ら変化に対応していくしか、生き残る方法はないのですから。

 

最後に、私たち納税者の立場からすると、

負担する税金が少なくて済むことは喜ばしいことかも知れません。

 

ただ、日本の財政に余裕がないことは事実ですし、

今後も少子高齢化による社会保障費・医療費の増加は

避けて通れない課題です。

 

このような状況下で、支出を抑えず収入だけ減ったとしたら、

他の国々はどのように見るでしょう。

 

日本も国際社会の一員です。

 

このまま行くと、近い将来ギリシアやスペインと

同じような状況が待ち受けているかもしれません。

 

そうならないためには、納めるべきものは納めた上で

(もちろん合法的な節税は私たちの権利ですが)、

納めた税金がどのように使われたかを厳しく監視していくことが必要です。

 

今回の総選挙もいい機会かも知れません。

 

税理士 荻原岳志

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