飲食店の税務

月別アーカイブ: 10月 2012

こんにちは、税理士の荻原岳志です。

 

ひとえに飲食店といっても、料理をメインに提供しているお店もあれば、

アルコール類等のドリンクをメインに提供しているお店もあります。

 

サービスの提供方法も、来店型の店舗形態から

テイクアウトや宅配専門店などの形態があります。

 

また、運営の主体が個人なのか法人なのかによる違いもあります。

 

このように、異なる視点から何通りものグループ分けが出来てしまう飲食店ですが、

税金に対する取扱いは統一されたものがあります。

 

そこで、今回は、45歳にして脱サラし、都内某所でラーメン店を営む田中さんという

架空の人物に登場してもらい、開業以降いつ・どのような税金が関係してくるのかを

見ていきたいと思います。

 

紙面の都合上、各種特例の適用要件などについての説明は

省略している部分がありますので、ご注意ください。

 

開業時の手続き

 

 まずは、開業時の手続きです。田中さんも開業前後は、

保健所への営業許可申請や各種契約の締結の他、

従業員の教育や広告宣伝活動など、寝る間を惜しんで働きました。

 

その後開業から2ヶ月程して、余裕も出てきたので

飲食店向けの集客セミナーに参加してみた時のことです。

 

隣に座った参加者から、もう税務署への申請手続きは

終わりましたかと訊かれました。

 

何のことかと思い、話を聞いてみると個人が事業を開始した場合には、

税務署へいろいろな届出書を提出しなければならないとのことです。

 

セミナー終了後、田中さんは、慌てて税務署へ行き、

手続きの申請方法について確認してきました。

 

担当者の方の話によると、個人が事業を開始した場合、

「個人事業の開廃業等届出書」を提出しなければならないとのことです。

 

また、従業員を雇って給与を支払う場合は、「給与支払事務所等の開設届出書」を

提出し、特に家族従業員への給与は「青色事業専従者給与に関する届出書」を

提出した場合のみ認められているそうです。

 

更に給与天引きの源泉所得税の納付時期を半年に1回にしたいときは、

「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を提出しなければならないそうです。

 

その他に忘れてならないのは、「所得税の青色申告承認申請書」の提出です。

この書類は開業後2ヶ月以内に提出しなければなりません。

 

青色申告には、帳簿付けという義務は課されるものの、

一定要件の下65万円の経費が認められたり、

赤字を3年間繰り越せたりなどのメリットがあります。

 

また、減価償却の方法も届出を提出することで

節税効果の高い定率法を選択できるとのことです。

 

ここで開業時の届出関係で注意が必要な事項を指摘しておきます。

消費税に関するものです。

 

通常、個人事業主の開業1年目と2年目は消費税を納める義務はありません。

 

ですが、開業当初は設備投資が多額になるため、

消費税の課税事業者を選択することで消費税の還付を受けられる場合があるのです。

 

そのためには、「消費税課税事業者選択届出書」の提出が必要ですが、

平成22年度税制改正でその取扱いが変更されていますので、

有利・不利の試算をする場合には注意が必要です。

 

田中さんは、以上の書類を即日提出しました。

 

まだ、開業から2ヶ月を経過していなかったので、

青色申請もギリギリ間に合いました。

 

消費税については、2年目・3年目のことも考えて、

今回は課税事業者の選択はしませんでした。

 

業務に関係する税金

 

実際に、事業を開始すると様々な場面で税金と係わってくるようになります。

 

田中さんもサラリーマン時代はほとんど意識することがありませんでしたが、

今では、かなり税金に対する関心が強くなっているようです。

 

いつどのような税金がかかるのか、日々の業務の中で発生するものと、

特定の時期だけに発生するものに分けて見てみましょう。

 

まず、日々の業務の中で発生するものには、

給与支払時の源泉所得税や消費税・印紙税があります。

 

今まで、給与を支給される側だった田中さんも、

今後は給与を支給する側に回ります。

 

給与から天引きされる所得税は源泉徴収税額表を用いて求めます。

 

徴収した所得税は翌月10日までに税務署へ納めることになりますが、

開業時の手続き関係のところでも触れたように、

半年に1回の納付に切り替えることもできます。

 

また、田中さんが迷ったのは、消費税の扱いです。

 

当初2年間は免税なので、

消費税を料金に乗せてはいけないような気がしたからです。

 

しかし、実際お客さんから見たら、

課税事業者か免税事業者かの判断は出来ません。

 

今は免税だからといって、消費税を乗せておかないと、

課税事業者になった時に消費税分を上乗せできるかと言えば難しいのが現実です。

 

結局、田中さんも最初から消費税を含めた料金体系にしました。

 

印紙税についてですが、開業初年度の忘年会で

十数名での予約のお客さんに対応した際のことです。

 

一通り注文のメニューを出し終わり、ほっとしていたところ、

精算のときに、領収書を請求されました。

 

金額は5万円です。そのまま金額を記載して渡そうとしたところ、

印紙を貼ってないとの指摘を受けました。

 

後でよく調べてみると、3万円以上の領収書を発行する場合、

200円の印紙が必要になるということで、ひとつ勉強になったようです。

 

次に、特定の時期だけ発生するものを見てみます。

 

1月には、各市区町村へ償却資産税の申告・給与支払報告書の提出があり、

税務署へ法定調書合計表の提出があります。   

 

3月には個人事業主の最大のイベントである所得税・消費税の確定申告があります。

 

7月には納期の特例を選択している場合の

上半期分の源泉所得税の納付があります。

(下半期分は1月になります。)

 

12月には年末調整です。

 

田中さんも今まで毎年年末調整を受けてきましたが、

自分で計算するとなると中々難しいものだと感じています。

 

法人成りに関する税務

 

田中さんのお店が開店してから5年を経過しようとしている時です。

 

多少の浮き沈みはありましたが、ここまで何とか順調に売上も伸ばしてきたので、

この辺りで法人成りした方がいいのかどうかの検討を始めたところです。

 

地元の商工会議所へ相談に行き、次のような話を聞いてきました。

 

まず、今までの所得税の世界から、法人税の世界へと計算方法が

根本的に変わるそうです。

 

そして、田中さんは法人から給与をもらう形になり、

この給与には、所得税が課税されるとのことです。

 

以前のサラリーマンの立場に戻った感じです。

 

法人成りが有利か不利かはケースバイケースで、

一概には何とも言えませんが、単に税額だけで判断するなら、

事業所得が黒字の場合、法人成りして、

その黒字相当額を給与として支給することで納税額は

減少するケースがほとんどだそうです。

 

ただし、個人が持っている資産を新設会社に売る場合には、

譲渡所得税などの検討も必要です。

 

また、消費税についてですが、こちらは個人時代と同様、

当初2年間の免税期間があるので、

課税事業者の個人事業主は法人成りした方が有利になるとのことでした。

 

ただし、23年度の税制改正でその取扱いが厳しくなっているので、

注意が必要です。

 

結局、田中さんは2店舗目の出店を考えていたこともあり、

銀行融資の必要性を考え、法人成りすることを決意しました。

 

事業継承に関する税金

 

早いもので、田中さんのお店も開店から今年で20年になりました。

 

店舗運営はその後も順調に進み、

現在では都内5店舗まで拡大することができました。ただ、

 

年齢的に65歳とサラリーマンであれば定年を迎える時期です。

 

そろそろ次の世代への引き継ぎということも

考えないといけないと思い始めています。

 

いわゆる事業承継です。

 

幸い田中さんには今年30歳になる息子さんがいて、

現在は他の会社で修業中ですが、

将来は田中さんの後を継ぎたいと言ってくれています。

 

そこで注意しなければいけないのは、

事業承継を進めていくに当たっても税金の話がついて回るということです。

 

会社の経営権を息子さんに譲ろうと

会社の株の名義を息子さんへ変更すると、

その時点で贈与税がかかります。

 

まずは、会社の税務上の株価を算定しなくてはなりませんが、

贈与税は相続税に比べるとかなり割高な税率となっているので、

安易な名義変更は大怪我のもとになります。

 

ここで相続税の話が出ましたが、最近国会では、

相続税の課税対象範囲を拡大しようとの動きが出ています。

 

田中さんも会社の株の他に、死亡保険金1,000万円の終身保険に加入していて、

親から相続で引き継いだ自宅もあります。

 

このような状況を考えると、単に息子さんへの事業の承継だけを考えるのではなく、

将来の相続にも備えた準備が必要となりそうだということで、

いろいろ勉強を始めたそうです。

 

これで、田中さんの開業から現在に至るまでのお話はおしまいです。

 

飲食店の経営と税金がどのように関係してくるのか

イメージしてもらえましたでしょうか。

 

まずは、普段どのように税金と接しているのかを知ることが大切です。

税金に対する理解が深まれば、徴収された税金の使い道にも注意が向くのではないでしょうか。

 

税金は納めて終わりではなく、その後の使途も注意して見ていく、

これも私たち納税者の後世に対する責任だと言えるのかも知れません。

 

税理士 荻原岳志

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